「からだとこころの発見塾」とは


  からだとこころの発見塾(以下発見塾)は、2005年、『東京大学医療政策人材養成講座』一期生の中から生まれました。発起人として集まった面々は、医療提供者、医療政策立案者、ジャーナリスト、患者支援者など、性別も年代も経歴もばらばらです。ただ医療を良くしたいという思いを出発点に、その方法の一つとして「自らの心身に対する知的好奇心を刺激し、医療に主体的にかかわる意識を涵養する」ことを目的とした発見塾を立ち上げました。

    心身に無関心であること――生老病死が遠い世界にあること

 現代社会においては、からだやこころの本質に触れ、感じ、理解する機会が極めて少 なくなっています。その原因の一つには、病も誕生も死も、日常から隔絶された場所(病院)に閉じ込められるようになったこと、さらには高齢化・核家族化の 急速な進展が考えられます。多感な子どもたちから生老病死に直面する大切な機会を奪うことは、命を実感する感性を失わせ、病気や障がい・個性など、ひとと 違った面を受け入れがたくする原因となっているように思います。そして私たちおとなもまた、忙しい生活リズムに順応し、生産性だけを重視する社会のなか で、人の痛みどころか、自分自身の痛みにも鈍感になってしまってはいないでしょうか。
 一方、医療現場では、「患者中心」「自己決定」の名のもと、治療の選択・決定が患者自身に負わされています。これまで心身の変調にも医療にも無関心で あったがために、ひとたび病気と診断されると気が動転して病を否定したり、目の前の医師との間の知識・情報の格差に気後れしたりして、医師とのコミュニ ケーションの土俵にものぼれません。

    発見塾は「からだとこころを見つめる」場を提供します

 しかし、人々の『知りたい』という気持ちは失われてはいません。自分のからだに対 しても同様です。それは、科学館の医学展示コーナーや『人体の不思議展』の盛況ぶりをみても明らかで、政府が行なった「国民の最大の関心事」の調査結果に も「医療・福祉」への関心の高さがうかがえます。ところが現実には、その知的好奇心を満たす場は十分とは言えず、なかなか私たちの手の届くところにはない のです。
 そこで発見塾は、こうしたものに触れる機会を広く提供しようと考えました。人体やこころがいかに神秘に満ち、精緻にしかも柔軟に作られているのかを実感 する場や、からだやこころ、病や死が生きた言葉で語られる場などの提供です。自らのからだやこころの悩みに「気づく」ことに始まり、さまざまな方法で「調 べる」ことを手助けし、「感じる」「知る」場を提供し、いのちやからだ、そしてこころを「表現する」ことを試みます。しかも、それぞれのニーズに合わせて の選択が可能です。
 発見塾の授業によって、自分のからだやこころに関心を持ち、かけがえのない「自分」の存在の尊さを実感し、他人との違いを認めることで他人の痛みをも理 解でき、大切に思える気持ちが育まれることが期待されます。また、健康・医療情報のメディアリテラシー教育の側面も備えており、病気や医療情報に対する感 度を高めることにつながります。

    子ども、そしておとなの生きる力を育むために「集める」「つなぐ」

 発見塾はまた、日常的にからだやこころに興味を持つ機会を準備し、いつでも学べる よう、学校図書館などに「からだとこころの図書コーナー」の設置を提案・実施しています。その一方で、からだに関するアトラスや人体模型、医療機器、病気 に関する患者会資料、各地に散在するすぐれた絵本や紙芝居、ぬいぐるみや手作り教材などを収集・研究し、「からだ・病気・こころ・いのちの資料」リストを 作り、さらには新たな教材の開発にも取り組みたいと考えています。
 そしてもっとも大事なことは、人材のネットワークの構築です。全国各地で地道に「いのちの授業」などに取り組んでおられる方々はもちろん、気持ちはあっ てもまだ活動に至っていない人材の発掘も発見塾の大きな目的の一つです。いずれ、効果的な授業のための研鑽の場を設けたり、授業メニューや講師依頼を体系 化したりすることも求められてくると思います。
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 私たちは、『からだとこころの発見塾』で出会った子どもたち、おとなたちが、10年後、15年後に社会にもたらす効果は甚大であることを信じています。